「坂上みき53歳妊娠!」

この衝撃的ともいえるニュースが全国を駆け巡ったことは、記憶に新しいと思います。

「快挙!」「多くの女性に勇気を与えた!」メディアは「53歳妊娠」ニュースを希望の光として扱い、同年代の女性はこの話題で大いに盛り上がりました。

その一方、高齢出産の現実を冷静な目で見る識者の意見も注目されています。

フェミニズム社会学を専門とするある女性タレントは、メディアの異常な過熱ぶりに疑問を抱き、高齢出産に過剰な期待を抱く人々やそれを煽るマスコミに対して警鐘を鳴らしています。

「53歳妊娠」に過剰反応する女性達

この報道後、彼女のもとには「53歳で妊娠だって!」というメールがひっきりなしに届くようになりました。

送り主のほとんどは、彼女と同じくオンリーキャリア・ノンチルドレンを貫く女性たちでした。

メールが届くたびに彼女はため息をつきます。

「なぜこんなに大騒ぎするの?うらやましいから?しまった!という悔恨から?うまいことやって…という妬み?それとも心から拍手を送っているのか?」

なぜここまで女性たちが反応するのか。恐らく本人たちにもわかっていないでしょう。

しかし「53歳妊娠」という言葉には、同年代の女性たちの心をいともたやすく爆破するほどの衝撃力がある、ということは確かなようです。

無責任なコメントをばらまくこと

妊娠はおめでたいことであり、ご本人には「おめでとう」の言葉しかありません。

しかし、この女性タレントが腹立たしく思うのは「53歳妊娠」のニュースを受け、やたら「勇気をもらいました」「希望が持てました」系のコメントを多発する著名人が多いことです。

彼らは自分たちが無責任に「勇気」をばらまいている罪の大きさに気付いていない、と彼女は指摘しています。

こういうコメントを発する著名人は「いくら勇気をもらったとしても、年を取った女性は簡単に子供を授かることはできない」という厳しい現実をわかっているのでしょうか。

不妊治療の進歩により、50歳以上の妊娠も可能な時代になっており、驚くことに60歳の妊娠・出産の成功例も報告されています。

多くの女性たちがこの稀な例に勇気づけられ妊娠を望み続けるとしたら、彼女たちは60歳になっても不妊治療を頑張り続けなければならないのでしょうか。

残念ながら、高齢妊娠への“勇気ある試み”がある時点で“無茶な試み”に変わる時があるのが現実です。

高齢出産

実際その線引きをつけることができずに、不妊治療の蟻地獄から抜け出せない高齢女性も多く、ドキュメンタリー番組が組まれるほど深刻な問題になっています。

著名人の安易なコメントを受け、深く考えずに「53歳でも子供が産めるんだ」と簡単に受け止める女性も数多くいるでしょう。

その結果出産を先延ばしにしたとして、問題なく高齢妊娠・出産できれば良いのですが、現実はそんなに簡単なものではありません。

そして高齢妊娠の難しさに直面した時に初めて、くだんの「勇気をもらった」発言がいかに無責任で思慮のないものであったかを思い知らされることになるのです。

なぜ出産を先延ばしにしたがるのか

お産は若い方がいい、という事実は誰もが知っています。にもかかわらず、多くの女性が妊娠出産を先延ばしにするのはなぜでしょうか。

「家事も子育ても男女平等に」「もっと女性の社会進出を」とさけばれて久しいですが、現代社会では妊娠・出産・育児が女性にとって仕事上の大きなハンデになっているのが現実です。

仕事上のハンデ

女性たちはそれを肌で感じて知っているからこそ、子供を産み育てることに躊躇するのです。

いつかは子供が欲しい、でもステップアップのためにも仕事は抜けられない…と悩む女性がどれほど多いことか。

そこへきて「53歳出産」のニュースを聞いたとなると、悩める女性たちが「高齢出産という手もあったか」と思うのも無理からぬ話かもしれません。

実際に何歳まで妊娠できるのか

女性の場合、人生設計を決定する軸となるのは「何歳で子供を産むか、又は子供を産まないか」ということです。

その10年を自分のために使うのか、それとも子供のため、介護のため…人生の使用目的にいろいろな要素が入ってくるのが40代です。

自分の人生をどう使うか。それをはっきりさせるためにも、高齢妊娠の現実を知っておくことが大切です。

最近は“妊娠力”という言葉がよく使われ、女性誌でも「何歳まで妊娠できるのか」などの特集が組まれたりします。しかしこの坂上みきさんは疑問を呈しています。

それは信用できる情報なのか?そして女性たちは高齢妊娠について本当に正しい知識を持っているのか?

彼女は「日本受精着床学会雑誌」という医学界雑誌をひもとき、最前線の不妊治療に関する確かな情報を紹介しています。

その中には、「45歳以上の症例の体外受精胚移植の成功例は2症例(1.5%症例)である」という研究報告があります

さらに「45歳以上ではいかなる卵巣刺激方法をもってしても排卵数・妊娠率に変化がみられなかった」という結果も示されています。

つまり、45歳以上ではどのような方法を試みても、採取できる卵子の数が増えることも妊娠率が上がることもなく、結果として体外受精が成功する確率は全体の1.5%のみであった、ということです。

この研究結果を見ると、「53歳妊娠」がいかに珍しい事例であるかがわかります。

高齢出産の正しい知識を解くことなく安易に「53歳妊娠」に希望を持たせることは、女性たちにとって危険で酷なことだと彼女は訴えています。

産むか産まないか決断は35歳までに

この女性タレントは「子供が欲しければ35歳までに」こそ報道されるべきだと考えています。

35歳から40歳までは不妊治療に期待はできるけど、高額な治療費や膨大な時間がかかることを考えると、35歳までに決めた方がよいということです。

産むか産まないか

現在の報道は「まだまだ妊娠出産できる年齢」と「無茶な年齢」の線引きを正確に伝えないまま、「53歳妊娠」の快挙だけにスポットをあてている状況です。

そしてその報道は、高齢を理由に妊娠出産をあきらめた女性にとっては、心かき乱される衝撃力を持った魔物なのです。

高齢妊娠を果たした坂上みきさんには何の罪もありません。

「53歳妊娠」が誰にでも可能であるかのような錯覚を抱かせる報道のあり方と、著名人たちの無責任なコメントに問題があるのだ、と彼女は指摘します。

そしてその騒ぎによって、妊娠出産をあきらめたはずの女性たちは自責の念を呼びおこされ、更年期に差しかかる年齢になってもなお「子供を産まなくては」という呪縛から解放されずに苦しむことになるのです。

よほど恵まれた環境や条件を持つ女性でない限り、20代の出産はキャリアの放棄、35歳の出産はキャリアからの転落を意味します。

事実がそうである以上、仕事か子育てか自分にとって本当に大切なものを選択し、そうと決めたらその道にまい進するべきだ、とこの女性タレントは言います。

くれぐれも、報道を鵜呑みにして安易な気持ちで「坂上みきを見習おう!」などと思わないでください。

将来「高齢妊娠、思ったようにうまくいかなかった…」ということにならないよう、しっかりと知識を身につけて早めに人生の選択をすることが大切です。